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仕事にも子育てにも活かせる物語の教訓|令和の大人が読み直したい昔話10選

「同僚や部下にどう伝えれば響くのか?」
「どうすれば子どものワガママを直せるのか?」

令和という時代を生きる私たちは、職場でも家庭でも価値観や道徳観の共有の難しさに直面しています。
リモートワークが普及し、ますますデジタルコミュニケーションが主流となっている今、人間関係の本質的な価値をどのように形成していくべきかは、多くの大人が抱えている課題ではないでしょうか。

実はそんなときにこそ注目してほしいのが「昔話」です。

つるのおんがえし、うさぎとかめ、わらしべちょうじゃ……これらの物語を「子ども向けの古い話」だと思っていませんか?しかし、20年にわたる民話研究と7000話を超える伝説データベースの分析からは、昔話に込められた教訓が現代のビジネスシーンや人材育成にも驚くほど有効な局面があることが見えてきました。

昔話絵本の表紙

しかし日本における昔話は、とても長い年月をかけて人々の知恵や願いが編み込まれた「物語という形の教科書」ともいえる存在。

昔話とは、登場人物の行動を通して「正直であること」「困っている人を助けること」「欲におぼれないこと」などを、自然と楽しく学ぶことができる要素をもちあわせた物語なのです。大人が教えようとしても届かない価値観も、物語を通せばすっと心に届くこともある――そんな力が、昔話にはあります。

この記事では、数ある昔話の中から「教訓性の高い昔話10選」を紹介し、それぞれのあらすじと教訓、さらに読み聞かせの際に意識したいポイントを解説します。

読み終えていただければ、昔話がどれほど深く、現代においても有効な“ビジネスや道徳の種”であるかを実感できるはずです。ぜひお子さんやお孫さんと一緒に、昔話の世界をのぞいてみてください。きっとお子さんの反応や会話の中に、思わぬ気づきや成長の芽を感じられるようになるはずです。

昔話を通じた道徳的成長のサイクル

1.まずは全体像!教訓性の高い昔話10選と教訓リスト

数ある昔話の中から、特に教訓性の高い10話を厳選しました。まずは一覧でご覧ください。

教訓性の高い昔話の表

「子どもにどう伝えればいいのか分からない」、「子どもが説明を聞いてくれない」と悩んでしまうようなことも、昔話ならスッと伝わることがあります。

これからの成長とともに大切になっていく道徳観、倫理観、価値観を、昔話は登場人物の行動を通して自然に語ってくれるからです。教訓を押しつけるのではなく、物語として“感じ取らせる”ことができる。だからこそ、昔話は時代を越えて読み継がれてきたのです。

ここからは、先ほどのリストに登場した10話それぞれについて、「どんな物語なのか」「どんな教訓があるのか」「読み聞かせの際に意識したいポイント」などを、1話ずつ丁寧に解説していきます。

2. 【昔話別】教訓と読み聞かせガイド

2-1 つるのおんがえし│約束

絵本「つるのおんがえし」の表紙

【あらすじ】

ある冬の日、貧しい若者が市場で売られている一羽の鶴を助けてやります。
その夜、見知らぬ美しい娘が現れて一夜の宿を求めます。そのまま二人は一緒に暮らすようになり、やがて夫婦になります。
ある日、娘は「決して部屋をのぞかないでください」と約束をしたうえで、何日も部屋にこもって機織りをはじめます。織りあがった布は美しく高価で、若者はそれを売って暮らしが楽になります。

しかし、織るたびに娘はやせ細り、心配した若者は約束を破って部屋をのぞいてしまいます。するとそこには、羽を抜きながら布を織る、あの助けた鶴の姿がありました。

鶴は正体を見られたことに涙し、空へと帰っていきました。

つるのおんがえし場面集

教訓1:「見返りを求めない優しさの大切さ」

『つるのおんがえし』の物語の始まりは、主人公の若者が一羽の鶴を助ける場面です。

貧しいにもかかわらず、罠にかかった鶴をかわいそうに思い、なけなしのお金を使って買い取り、空へと逃がしてやります。この行動には、相手が人間であろうと動物であろうと、目の前の「困っている存在」に心を寄せる優しさが込められています。

私たちはつい目の前の「自分にとって得か損か」という観点で行動してしまいがちですが、主人公の行動には一切の打算がありません。相手の命を思いやる純粋な気持ちだけで動いたことが、やがて鶴の恩返しというかたちで返ってくるのです。

このエピソードは、子どもたちに「見返りを求めずに優しさを持つこと」の大切さを伝えるうえで、非常に効果的です。他者への共感やいたわりの心を育てる第一歩として、動物への優しさを自然に学べるのがこの昔話の魅力です。また、フランスの哲学者であるラ・ロシュフコーの「本当の勇気は誰も見ていない時に示される」という格言にもつながるものがあります。

「助けたい」という素直な気持ちが、巡り巡って自分を救うことになる――そんな価値観を子どもたちに伝えられるよう、ぜひ読み聞かせの際には若者のまっすぐな優しさに注目してあげてください。

教訓2:「約束の大切さ」

『つるのおんがえし』の中で、鶴(娘)は若者に「機を織っている間は絶対に部屋をのぞかないでください」と、ただひとつのお願い=約束をします。

この場面には、「約束」とは何かを子どもたちが深く考えるヒントが詰まっています。

自分にとっては些細なお願いでも、相手にとっては大切な意味を持っているかもしれない。だからこそ、相手との信頼関係を大切にし、安易に破らないことが重要なのだと、この物語は教えてくれます。

子どもにとっては、つい気になってのぞいてしまう気持ちにも共感できるでしょう。でもその結果、大切な人が離れてしまう悲しみも描かれているからこそ、「約束を守ることの重み」が自然と心に残ります。

読み聞かせの際には、「約束って、どういう時にするの?」「守れなかったらどうなる?」といった問いかけを通じて、子ども自身に気づきを促すのもよいでしょう。

そして同時に、大人もしっかりと見直すべきことでもあります。

日常生活の中で子どもと交わしている小さな約束はありませんか?
忙しい「今」をやり過ごすために、「今度はやろうね」「次はしてあげるね」と約束することはしばしばあります。
いかがでしょう、それらの子どもと交わした小さな約束はしっかりと守られていますか?
子どもは忘れてしまっていると思っていても、実はしっかりと覚えていることもあります。約束の重み、自分の価値観で決めてしまってはいませんか?

教訓3:「仕事における信頼関係の構築」

『つるのおんがえし』からは、現代のビジネス環境における教訓、特に信頼関係の構築と維持について深い学びを得ることができます。

若者が鶴を助けた行動は「ギブファースト」の精神そのものです。

見返りを求めずに相手のために行動することが、最終的に最大のリターンをもたらすという原則を示しています。現代のビジネス環境では、SNSの普及によって企業の姿勢が瞬時に社会へ拡散されます。ここでは計算高い行動は見抜かれやすく、逆に純粋な善意に基づく行動は大きな信頼と評価を生みます。

また、鶴との約束を破ったことで関係を失った経験は、ビジネスにおける契約や約束の重要性を教えてくれます。納期の厳守、会議の約束、提案内容の実行など、どんな小さな約束に思えても相手にとっては重要な意味を持つことがあります。特にマネジメントにおいて、部下との約束を軽視することは、チーム全体の信頼を失うことにつながります。

そして、若者が好奇心から部屋を覗いてしまった行動は、現代の職場での「過度な干渉」の危険性を示しているでしょうか。リモートワーク環境で部下の働き方を過度に監視したがるマネージャーについて耳にすることがありますが、信頼に基づかない関係性は持続しません。相手の領域を尊重し、約束した範囲内で関係を築くことが、長期的な協力関係の基盤となります。逆にリモートワークをする部下が上司の信頼を裏切った時に何が起こるかも、この物語は教えてくれています。

AIやシステムでは代替できない、人と人との深いつながりこそがビジネスの基盤となるのです。

「つるのおんがえし」ひとことポイント

見返りを求めない純粋な優しさは最終的に自分を救う。
約束の重さを自分だけで判断すると信頼関係が崩れてしまう。

2-2 ねずみのよめいり│個性の伸長

絵本の表紙「ねずみのよめいり」

【あらすじ】

あるところに、美しい娘ねずみがいました。娘を大切に思うお父さんねずみは、この世で一番偉い相手を娘のお婿さんにしたいと考えました。

「きっと太陽が一番偉いに違いない」と考えたお父さんねずみは、太陽のもとを訪れます。しかし太陽は言いました。「私は雲に隠されてしまうから、雲の方が偉いのです」。そこで雲のもとを訪れると、雲は「私は風に飛ばされてしまうから、風の方が偉いのです」と答えます。風のもとを訪れると、「私は壁に止められてしまうから、壁の方が偉いのです」と言われました。

最後に壁のもとを訪れると、壁は笑いながら答えました。「私はねずみに穴を開けられてしまうから、君たちねずみの方がよっぽど偉いのですよ」

こうして、娘ねずみは同じねずみの若者と結婚し、幸せに暮らしました。

ねずみのよめいり場面集

教訓1:「自分という個性を大切にする心」

『ねずみのよめいり』の最も重要な教訓は、「自分らしさ」や「自分の個性」、「自分の価値」を認めることの大切さです。
物語の中でお父さんねずみは「この世で一番偉い存在」を探します。

太陽、雲、風、壁……確かにどれも力強く、立派な存在です。

しかし、立派な彼らにもそれぞれに得手不得手があり、「絶対的に偉い存在」などありませんでした。壁に穴を開けることができるのは、小さくても強い歯をもつねずみだからこそ。輝く太陽にも、大きな雲にも、力強い風にもできないことです。
子どもたちは時として、「○○ちゃんの方がすごい」「もっと大きくなりたい」「もっと強くなりたい」と、自分以外の何かになりたがったり、目の前の順位や強さだけで物事の価値を判断することがあったりします。

そんな時にこの昔話は、「あなたにはあなたの素晴らしいところがある」「あなたにしかできないことがある」と優しく語りかけてくれるのです。

読み聞かせの際には、「ねずみさんの良いところって何だろう?」「みんなにも、みんなだけの特別な良いところがあるよね」といった声かけを通じて、子ども一人ひとりの個性や長所に注目してあげてください。

教訓2:「身近な人の価値を見直す心」

この物語のもう一つの重要な教訓は、「身近にいる人や物事の価値を見直す」ことの大切さです。

お父さんねずみは遠くの「偉大な存在」ばかりを追い求めていましたが、結局のところ娘ねずみにとって最適な相手は身近にいる同じねずみの若者でした。遠くにある特別なものではなく、近くにある当たり前のものの中にこそ、本当の価値があることをこの物語は教えてくれます。

これは子どもたちの人間関係においても大切な視点です。「有名な人」「人気のある人」「目立つ人」に憧れることも大切なことではありますが、毎日一緒に過ごしている友だちや家族、先生たちの中にも、たくさんの素晴らしさがあることに気づいてほしいのです。

読み聞かせをしながら身近な友だちの長所について尋ねてみるなど、子どもたちが短所ではなく長所に注目するような声かけをしてみてください。

教訓3:「多くを求めすぎない心」

お父さんネズミの行動からは、「完璧を求めすぎることの落とし穴」も学ぶことができます。

「この世で一番偉い存在」を求めるあまり、お父さんネズミは太陽から壁まで、次々と相手を変えていきます。しかし最終的に分かるのは、誰にでも得意なことと苦手なことがあり、「全てにおいて完璧」な存在はいないということです。

これは子どもたちが友だち関係を築く上でも重要な学びです。「この人は優しいけれど静か」「この人は面白いけれど時々わがまま」など、誰にでも様々な面があります。相手に多くを求めすぎず、その人の良いところを大切にする心を育てることで、より豊かな人間関係を築くことができるのです。

そして私たち大人も、子どもたちに「あれもこれも」と多くを求めすぎていないか、振り返ってみることが大切です。一人ひとりの子どもの「今できること」「今頑張っていること」に目を向け、その子らしい成長を見守る姿勢を大切にしたいものです。

また、令和という現代においてはお父さんねずみの「過干渉」や、お父さんに言われるままについていく娘ねずみの「自己主張のなさ」も新たな視点として見出すことができるかも知れませんね。

教訓4:「適材適所と組織運営」

『ねずみのよめいり』は、組織運営や人材活用についても大切な示唆を与えてくれます。特に適材適所の人材配置と、多様性を活かした組織づくりについて学ぶことができます。

すべての分野で完璧な人材は存在しません。重要なのは、その人の強みを活かせる適切なポジションを見つけることです。また、どれほど優秀な人材でも組織の価値観や文化に合わなければ継続的に成果を生むことは困難です。採用時にはスキルや経験だけでなく、組織との相性を重視することが成功の鍵となります。

この物語が教えてくれるのは、異なる能力を持つ人々が、それぞれの特性を活かして補完し合うことの価値です。太陽の力強さ、雲の柔軟性、風の機動力、壁の安定感、そしてねずみの細やかさ——すべてが組織にとって必要な要素であり、リーダーにはそれらをマネジメントする能力が求められます。

ひとことポイント

完璧な存在はおらず、なにごとにも完璧を求めてはいけない。
人の短所よりも長所に注目することで、本当に大切な価値を見出すことができる。

2-3 いなばのしろうさぎ│因果応報

「いなばのしろうさぎ」絵本表紙

この物語は、日本最古の歴史書とされる「古事記」に登場する由緒ある説話です。単なる昔話ではなく、日本の国づくりを行った大国主命という神さまの優しさと精神性を伝える、深い意味を持った物語なのです。

【あらすじ】

むかしむかし、ある小さな島にうさぎが暮らしていました。うさぎは海の向こうに見える大きな島へ行きたくてたまりませんでしたが、海を渡る方法がありません。

そこでうさぎは、サメたちにウソをつくことを思いつきました。「サメの仲間とうさぎの仲間、どちらが多いか数えてみよう」と持ちかけ、サメたちを海に一列に並ばせました。うさぎはサメの背中をぴょんぴょんと飛び移りながら数えるふりをして、大きな島へと向かいます。

ところが大きな島へたどり着く直前、うさぎは調子に乗って本当のことを話してしまいました。「実は君たちを騙していたんだ」それを聞いたサメたちは怒り、うさぎの毛皮を剥がしてしまいます。

うさぎが痛みに苦しんでいると、そこに意地悪な神さまが通りがかりました。彼らはうさぎに「海水で傷口を洗って潮風にあたるといい」とウソを教えます。うさぎが言われた通りにすると、痛みはひどくなるばかりでした。

そこに今度は優しい神さま(大国主命)が通りがかり、「川の水で傷口を洗って、蒲の穂を敷いてくるまりなさい」と正しい治療法を教えてくれました。うさぎが言われた通りにすると、痛みが治まって元気になりました。優しい神さまはそれを見て喜ぶと、どこかへ歩いていきました。

いなばのしろうさぎ場面集

教訓1:「行いには必ず結果が伴う」

『いなばのしろうさぎ』の最も重要な教訓は、「良い行いには良い結果が、悪い行いには悪い結果が返ってくる」という因果応報の考え方です。

うさぎは自分の目的を達成するためにサメたちを騙しました。一時的には思い通りになったように見えましたが、最終的にはその嘘がバレて痛い思いをすることになります。これは「人を騙せばやがて自分も騙されて痛い目にあう」ということを物語を通して教えてくれているのです。

子どもたちも日常生活の中で、「ちょっとしたウソならばれないだろう」「誰も見ていないから大丈夫」と思うことがあるかもしれません。しかしこの昔話は、どんな小さなウソや悪いことでも必ずその結果は自分に返ってくることを教えてくれます。

教訓2:「困っている人には優しさで応える心」

この物語のもう一つの重要な教訓は、優しい神さま(大国主命)の行動から学ぶことができます。

大国主命は兄神たちに従者のように扱われ、重い荷物を持たされて歩いており、自分自身も決して恵まれた状況ではありませんでした。それでも、苦しんでいるうさぎを見た時、「困っているなら助けてあげよう」という優しい心で手を差し伸べたのです。

うさぎは確かに悪いことをしました。しかし大国主命は「うさぎが悪いことをしたから助けない」とは考えませんでした。これは「罪を憎んで人を憎まず」という大切な考え方を教えてくれています。誰かが間違いを犯したとしてもその人自体を嫌いになるのではなく、困っている時には助けてあげる――そんな優しさの大切さを学ぶことができます。

古事記にはこの物語の続きが記されています。この物語の後、大国主命の優しさが最終的に自分への恩恵となって返ってくるのです。兄神たちは八上比売という美しい女性に求婚しに行くところだったのですが、うさぎは先回りして八上比売に一部始終を報告します。その結果、八上比売は意地悪な兄神たちではなく、優しい大国主命を夫として選びました。これはまさに「情けは人の為ならず」ということわざの通り、人への親切が巡り巡って自分に恩恵をもたらした例なのです。

保育現場でも、時には友だちとけんかをしたり、ルールを破ったりする子どもがいるかも知れません。そんな時にこの物語を思い出し、「行いは叱るけれど、その子自身は大切に思っている」という姿勢で接することが重要です。また、子どもたちにも「お友だちが困っている時は、喧嘩をしていても助けてあげる優しさが大切だよ」と伝えてあげてください。

教訓3:「正直であることの大切さ」

いなばのしろうさぎの物語は、「正直であること」の大切さも教えてくれます。

うさぎの苦難は、サメたちに対してウソをついたことから始まりました。もし最初から正直に「向こうの島に行きたいので、背中に乗せてもらえませんか」とお願いしていたら、サメたちも快く協力してくれたかもしれません。

また、意地悪な神さまは「海水で洗えばいい」とウソを教え、優しい神さまは「川の水で洗いなさい」と本当のことを教えました。ウソの治療法と正しい治療法、その結果は全く違うものでした。

これらのエピソードから、「正直でいることが、結果的に自分を守ることにつながる」ということを学ぶことができます。一時的にはウソの方が楽に見えても、長い目で見れば正直でいる方が自分のためになるのです。
読み聞かせの後には、「本当のことを言うのは勇気がいるよね」「でも本当のことを言った方が、みんなも安心するし、自分も楽になるよね」といった声かけを通じて、子どもたちに正直さの価値を伝えてあげてください。

そして私たち大人も、子どもたちの前では常に正直でいることを心がけたいものです。「今度やってあげる」「後で考えておく」といった曖昧な返事ではなく、できることとできないことをはっきりと伝える誠実さが、子どもたちの信頼を育むのだと思います。

ひとことポイント

人への親切は巡り巡って自分に恩恵をもたらす。人への悪意もまた同じ。
罪を憎んで人を憎まずの精神性が悪意の連鎖を断つことができる。

2-4. わらしべちょうじゃ│親切

わらしべちょうじゃ絵本表紙

この物語は、平安時代末期の「今昔物語集」や鎌倉時代の「宇治拾遺物語」に収められている古典的な昔話です。物々交換を繰り返して持ち物が変化していくという展開は世界中で愛されており、イギリス民話「ねずみのしっぽ」やインド民話「ねずみ大尽」など、さまざまな国で類話を見ることができます。

【あらすじ】

むかしむかし、あるところに若者がいました。

ある日、若者は一本のワラを持って散歩に出かけました。お百姓さんが蓮の葉を風で飛ばされて困っていたので、ワラをあげて葉をしばるように教えました。お百姓さんは喜んで蓮の葉をお礼にくれました。

次に、商人が味噌を雨で濡らしそうになって困っていました。若者は蓮の葉をあげて樽を覆うように言うと、商人は味噌を少し分けてくれました。

今度は鍛冶屋さんが、雨で味噌を流されて困っていました。若者が味噌をあげると、鍛冶屋さんは刀をお礼にくれました。

さらに進むと、昼寝をしているお侍さんに大蛇が近づいてきました。若者はお侍さんを起こして刀を渡しました。お侍さんが刀を抜くと、大蛇は逃げていきました。

お侍さんは実はお城の殿様でした。殿様は若者をお城に招いてごちそうでもてなし、刀を譲ってほしいと頼みました。若者が刀を譲ると、殿様はたくさんの財宝をお礼にくれました。
そして若者はお金持ちになり、いつまでも幸せに暮らしました。

わらしべちょうじゃ場面集

教訓1:「困っている人を助ける優しい心」

『わらしべちょうじゃ』の最も重要な教訓は、「困っている人を見つけたら、自分にできることで助けてあげる」という優しさの大切さです。

若者は道中で出会った人々が困っている姿を見て、その都度、自分の持っているもので助けようとしました。ワラ、蓮の葉、味噌、刀、どれも特別に高価なものではありませんが、その時々で困っている人にとっては必要なものでした。

ここで注目したいのは、若者が「見返りを求めて」助けたわけではないということです。お百姓さんの蓮の葉が飛ばされそうになった時、商人の味噌が雨に濡れそうになった時、鍛冶屋さんが材料を失って困った時、お侍さんが危険にさらされた時……その時々で、若者は純粋に「困っているから助けたい」という気持ちで行動しました。

子どもたちにも、日常生活の中で「困っているお友だちがいたら、自分にできることで助けてあげよう」という心を育てることが大切です。

教訓2:「感謝の心とお礼の大切さ」

この物語を成り立たせているもう一つの重要な要素は、助けられた人々の「感謝の心」と「お礼をしようとする気持ち」です。

お百姓さん、商人、鍛冶屋さん、殿様。登場人物たちは皆、助けられた時に感謝を伝えるだけでなく、それぞれの方法でお礼をしました。このお礼の連鎖があったからこそ、一本のワラが最終的に財宝へと変わっていったのです。

現代社会でも、誰かに親切にしてもらった時に「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えることは、人間関係の基本です。そしてできる範囲で相手にお礼をしようとする心も大切です。

子どもたちには、「親切にしてもらった時、どんな気持ちになる?」「ありがとうって言われると、どんな気持ちになる?」といった問いかけを通じて、感謝の心の大切さを伝えてあげてください。また、「お礼は高価なものでなくても、気持ちが大切」ということも、この物語から学ぶことができます。

教訓3:「相手が本当に必要としているものを考える心」

『わらしべちょうじゃ』の面白さは偶然がおりなす物々交換です。

蓮の葉が飛ばされそうな時はワラを、味噌が雨に濡れそうな時は蓮の葉を、刀作りに味噌が必要な時は味噌を、大蛇に襲われそうな時は刀をというように、「需要と供給」が見事に合致しています。

これは現代の子どもたちにとっても重要な学びです。お友だちが困っている時、「自分があげたいもの」ではなく、「相手が本当に必要としているもの」を考えることで、より効果的な助けができるようになります。

例えば、泣いているお友だちには「一緒にいてあげる」、転んでけがをしたお友だちには「先生を呼んであげる」、忘れ物をしたお友だちには「貸してあげる」など、状況に応じた適切な助け方があることを教えてあげてください。

そして私たち大人も、子どもたちが本当に必要としているサポートは何かを常に考え、一人ひとりに合った援助の方法を見つけていきたいものです。画一的な支援ではなく、その子その子の状況に応じた適切な関わりを心がけることが大切です。

ひとことポイント

困っている人には、その人が本当に必要としているものを提供する。感謝の連鎖が価値を生む。

2-5 きつねのかんちがい│謝罪と寛容

きつねのかんちがい絵本表紙

この物語は、奈良県橿原市黄町に伝わる民話で、日常生活でよく起こる「勘違い」や「誤解」をテーマにした心温まる昔話です。間違いを犯した時の謝罪と、謝られた時の寛容さという、人間関係において最も大切な心の在り方を教えてくれます。

【あらすじ】

むかしむかし、ある村に惣五郎という優しいお百姓さんがいました。

ようやく田植えを終えたある日、惣五郎はケガをした子ぎつねを見つけて、家に連れて帰って手当てしてあげました。しかしその夜、家の外から誰かの怖い声が聞こえます。「抜いたぞ、抜いた、苗を抜いた」「惣五郎の苗、みんな抜いた」「かわいい子ぎつねをよくもよくも」。

次の日、田んぼへ行くときれいに植えたはずの苗が引き抜かれていました。田んぼにはきつねの足跡があちこちに残っています。親ぎつねが勘違いしていると思った惣五郎は、森へ行って大声で言いました。「子ぎつねは無事だぞ」「私は子ぎつねを助けて手当てをしたんだ」「元気になったら山へ帰すから待っててくれ」

その夜、どこからか楽しい音楽と優しい声が聞こえてきました。 「惣五郎さん、悪かったな」「田んぼはみんな元通りにしたよ」「助けてくれてありがとう、勘違いしてごめんなさい」

数日後、惣五郎は元気になった子ぎつねを山へ帰してあげました。それからは惣五郎の田んぼは毎年豊作になり、いつまでも幸せに暮らしました。

きつねのかんちがい場面集

教訓1:「間違いを素直に認めて謝る心」

『きつねのかんちがい』の重要な教訓の一つは、「間違いに気づいたら素直に謝る」ことの大切さです。

親ぎつねは最初、惣五郎が自分の子どもを傷つけたと勘違いして、怒りのあまり田んぼの苗を全部抜いてしまいました。しかし、惣五郎が子ぎつねを助けてくれていたことを知ると、すぐに自分の間違いを認めて謝罪したのです。

謝ることは、大人でも勇気のいることです。特に自分が間違っていたと認めることは、時として恥ずかしさや悔しさを伴います。しかし、親ぎつねのように素直に謝ることで、相手との関係を修復し、より良い関係を築くことができるのです。

子どもたちにも、「間違いは誰にでもあること」「大切なのは間違いに気づいた時に素直に謝ること」を伝えてあげてください。読み聞かせの際には、「きつねのお母さんは、どんな気持ちで謝ったのかな?」「みんなも、間違いに気づいた時はどうしたらいいかな?」といった問いかけを通じて、謝罪の大切さを一緒に考えてみましょう。ただし、考えなしに反射的、無条件に謝罪をすることは決して正しいことではありません。まずは自分で自分の間違いを見つめるように話してあげてください。

教訓2:「相手を許す寛容な心」

この物語のもう一つの重要な教訓は、惣五郎が示した「許す心」の美しさです。

惣五郎は、苦労して植えた田んぼの苗を全部抜かれてしまいました。それは大変な損失であり、怒りを感じても当然の状況です。しかし惣五郎は、親ぎつねの気持ちを理解し、勘違いが解けるように努力しました。そして親ぎつねが謝った時には許してあげます。

「許す」ということは、相手の気持ちを理解して相手の立場に立って考えることから始まります。惣五郎は、「親ぎつねは子どもを心配するあまり、勘違いしてしまったのだ」と相手の気持ちを思いやったからこそ、寛容な心で接することができました。

子どもたちの日常でも、友だち同士でけんかをしたり、誤解が生まれたりすることがあります。そんな時、「相手はどんな気持ちだったのかな?」「どうして相手はそんなことをしたのかな?」と考えることで、許す心を育むことができます。読み聞かせの後には、「惣五郎さんは、どうしてきつねを許してあげたのかな?」「みんなも、お友だちに謝られた時、どんな気持ちになる?」といった問いかけをしてみてください。

教訓3:「誤解を解くための対話の大切さ」

『きつねのかんちがい』で印象的なのは、惣五郎が誤解を解くために積極的に行動したことです。

田んぼを荒らされた惣五郎は、怒って仕返しをしようとは思いませんでした。代わりに「なぜこんなことが起きたのか」を考え、親ぎつねの勘違いに気づきました。そして森へ行き、大声で真実を伝えたのです。「子ぎつねは無事だ」「助けて手当てをした」「元気になったら帰す」と、きちんと説明しました。

この惣五郎の行動から、「誤解や勘違いは、きちんと話し合うことで解決できる」ということを学ぶことができます。黙っていては相手に真実は伝わりません。勇気を出して、まずは相手と対話することが大切です。
子どもたちにも、友だちとの間で誤解が生まれた時、「きちんと話し合って本当のことを伝えよう」と教えてあげてください。「○○ちゃんは、なぜ怒っているのかな?」「本当はどういうことだったか、説明してみよう」といった声かけを通じて、対話の大切さを伝えることができます。

そして私たち大人も、子どもたちとの間で誤解が生まれた時、一方的に叱るのではなくまず子どもの気持ちや状況を聞き、お互いの理解を深めることを心がけたいものです。「なぜそんなことをしたの?」という問いかけから始まる対話が、より良い関係を築く第一歩となるのです。

教訓4:「危機管理とコミュニケーション」

『きつねのかんちがい』は、ビジネスにおける危機管理とコミュニケーションについて重要な教訓を与えてくれます。

親ぎつねの激しい反応は、現代でもよく見られる「情報不足による誤解」を表しています。顧客クレームや社内トラブルの多くは、事実の確認不足や一方的な解釈から生まれます。ここで重要なのは感情的に反応する前に、まず正確な情報収集を行うことです。SNSの普及により誤った情報が瞬時に拡散される現代では、初期対応の冷静さがより重要になっています。

惣五郎が親ぎつねの誤解と行動を許し、その後も良好な関係を築いたことは、組織運営においても重要な示唆を与えてくれます。部下や取引先がミスを犯した際、適切な指導と改善を経た後は、過去を引きずらずに前向きな関係を築くことが組織全体の成長につながります。この物語が教えてくれるのは、危機は適切に対処すれば、むしろ関係性を深める機会になるということです。

ひとことポイント

誤解が生じた時は感情的にならず積極的に対話で解決する。
間違いを素直に認めて謝る姿勢と同時に、相手の謝罪を受け入れる寛容さも大切。

2-6 ききみみずきん│動物愛護

ききみみずきん絵本表紙

この物語は、日本各地で語り継がれてきた昔話です。江戸時代前期には、有名な陰陽師である安倍晴明の逸話として、動物の声を理解して帝の病を治したという話が記録されており、古くから「動物との心の交流」をテーマとした物語として愛されてきました。

【あらすじ】

むかしむかし、あるところに優しいおじいさんがいました。

ある日、おじいさんは山でケガした子ぎつねを見つけました。おじいさんが手当てしてあげると、親ぎつねは喜んで、お礼に動物と植物の声が聞こえる頭巾をくれました。それからおじいさんは、山の動物や植物の声を聞きながら、毎日を楽しく過ごすようになりました。

そんなある日のこと、庄屋さんの娘が病気になってしまいました。おじいさんも心配してお見舞いに行ったところ、庭の木の声が聞こえてきました。庭の木は根っこの上に蔵を立てられていたことを悲しんで、お嬢さんを病気にしていたのです。

おじいさんから事情を聞いた庄屋さんが、急いで蔵をどかしたところ、娘はすっかり元気になりました。
それからもおじいさんは、動物たちの色々な声を聞いて、村の人たちに教えてあげました。そしてこの村は、人と動物と植物がなかよく暮らす楽しい村になりました。

ききみみずきん場面集

教訓1:「動物や植物にも心があることを理解する」

『ききみみずきん』には、「動物や植物にも心がある」「動物を思いやる心」という教訓があります。

この物語は、動物や植物も人間と同じように喜んだり悲しんだりする存在であることを教えてくれます。物語の中で、庭の木は根っこの上に重い蔵を立てられて苦しんでいました。木も人間と同じように痛みを感じ、悲しい気持ちになることがあるのです。また、子ぎつねを助けてもらった親ぎつねは、感謝の気持ちを表すためにお礼の品を贈りました。

おじいさんは特別な頭巾があったから動物や植物の声を聞くことができましたが、私たちも想像力を働かせることで、動物や植物の気持ちを理解することができます。

子どもたちには、「動物も痛いって思うんだよ」「お花も大切にしてもらえると嬉しいんだよ」といった声かけを通じて、動物や植物への共感の心を育ててあげてください。読み聞かせの際には、「もしみんなが動物だったら、どんな気持ちかな?」「お花に水をあげる時、お花はどんな気持ちだと思う?」といった問いかけをしてみましょう。

教訓2:「優しさが巡り巡って人を助けることになる」

『ききみみずきん』では、おじいさんの優しさが最終的に多くの人を助けることになりました。

おじいさんは最初、見返りを求めることなく子ぎつねを助けました。その優しさに感謝した親ぎつねからもらった頭巾によって、おじいさんは庄屋さんのお嬢さんを助けることができました。そして村全体が人と動物と植物が仲良く暮らす平和な場所になります。つまり、動物への優しさが巡り巡って人間社会の問題解決につながったのです。現代社会でも、動物や自然環境を大切にすることが、結果的に私たち人間の豊かな生活につながることがたくさんあります。

子どもたちには、「動物に優しくすることは、みんなの幸せにもつながるんだよ」「自然を大切にすることで、みんなが気持ちよく過ごせるんだよ」といったメッセージを伝えてあげてください。

読み聞かせの後には、「みんなの周りにいる動物や植物に、どんな優しいことができるかな?」「動物や植物が元気だと、みんなも嬉しい気持ちになるよね」といった問いかけを通じて、身近な自然環境への関心を育んでください。

そして私たち大人も、子どもたちと一緒に動物や植物を観察し、その気持ちを想像してみることで、自然に対する感謝の心を深めていきたいものです。保育現場での植物の栽培や動物の飼育も、この物語の教訓を実践する素晴らしい機会となるでしょう。

ひとことポイント

動物や植物の感情を想像する。
相手の気持ちを考えて優しく接することで、人と自然が調和した暮らしを送ることができる。

2-7 かさじぞう│思いやり

かさじぞう絵本表紙

この物語は、日本各地で広く語り継がれてきた心温まる昔話です。

東北や北陸などの雪深い地域を舞台とし、最大の特徴はその物語の優しさにあります。他の昔話によく登場する悪役が一切出てこない、純粋な善意と思いやりに満ちた物語として、現代だからこそ大切にしたい日本の道徳観を伝えてくれます。

【あらすじ】

むかしむかし、ある雪国に心優しいおじいさんとおばあさんが暮らしていました。

ふたりはとても貧しく、大晦日だというのにお正月のお餅を買うお金がありません。そこで、ふたりで笠を編んで、それを売ったお金でお餅を買おうと考えました。

大晦日だったこともあり、町は賑わっていましたが、誰もおじいさんの笠には見向きもしません。笠を売ることをあきらめて帰る途中、おじいさんは道端に立つ6体のお地蔵さまに気付きます。吹雪の中、お地蔵さまの頭や肩には雪が降り積もっていました。寒そうだと思ったおじいさんは、売れ残った笠を順番にお地蔵さまに被せました。しかし、笠が1つ足りません。

そこでおじいさんは、自分が被っていた手拭いを笠のないお地蔵さまの頭に巻き、家に帰りました。

笠が1つも売れなかったと聞いてもおばあさんは「それは良いことをしましたね」と喜びました。

その夜、眠っていたふたりは重いものを引きずるような音で目を覚まします。
家の前には米俵やお餅、鯛などのご馳走に、小判などの財宝が山のように積まれていました。遠くには笠を被った6つの人影が見え、1つの人影は手拭いを被っています。それは、おじいさんが笠と手拭いを被せたお地蔵さまたちでした。

このお地蔵さまからの贈り物のおかげで、ふたりは幸せな新年を迎え、それからもずっと幸せに暮らすことができました。

かさじぞう場面集

教訓1:「自分が苦しい時でも他者への思いやりを忘れない心」

『かさじぞう』の最も重要な教訓は、「自分がどれほど苦しくても、他者への思いやりを忘れてはいけない」ということです。

おじいさんは、お正月のお餅も買えないほど貧しく、笠も売れずに困り果てていました。普通なら自分のことで精一杯になってしまいそうな状況です。しかし、吹雪の中で雪をかぶったお地蔵さまを見た時、おじいさんは「寒そうだ」と相手の立場に立って考えました。そして、大切な商品である笠を、迷うことなくお地蔵さまに被せてあげたのです。

この行動から、「本当の思いやり」とは何かを学ぶことができます。自分に余裕がある時に親切にするのは比較的簡単ですが、自分が困っている時でも相手のことを思いやることができるかどうか——それが真の優しさなのです。

子どもたちにも、「自分が疲れている時でも、困っているお友だちがいたら助けてあげよう」「自分のものが少ない時でも、お友だちと分けてあげる優しさを持とう」といったメッセージを伝えることができます。

読み聞かせの際には、「おじいさんはどんな気持ちだったかな?」「みんなも、自分が困っている時でも、お友だちを助けたことはある?」といった問いかけをしてみてください。

教訓2:「相手の思いやりを受け入れる温かい心」

この物語で見過ごされがちですが、非常に重要なのがおばあさんの反応です。

笠が1つも売れず、しかもその笠をお地蔵さまにあげてしまったと聞いても、おばあさんは一切怒りませんでした。それどころか「それは良いことをしましたね」と心から喜んだのです。

思いやりは、する側だけでなく、受け入れる側の心も大切です。相手の善意を理解し、それを温かく素直に受け入れることで、思いやりの循環が生まれます。

子どもたちには、「お友だちが優しいことをしてくれた時、どんな気持ちになる?」「お友だちの優しさを大切にしよう」といったメッセージを伝えることができます。また、「おばあさんは、どうして怒らなかったのかな?」「みんなも、誰かが優しいことをした時、どんな言葉をかけてあげる?」といった問いかけを通じて、相手の善意を受け入れる心の大切さを教えてあげてください。

そして私たち大人も、子どもたちが誰かに優しくした時、その行為を心から認めて褒めてあげることが大切です。結果がうまくいかなくても、その優しい気持ちを大切にしてあげることで、子どもたちの思いやりの心を育むことができるのです。

ひとことポイント

自分が苦しい時にこそ、他者への思いやりを忘れない強さ。
他者の行動を安易に批判せず、承認して受けとめる優しさ。

2-8 いっすんぼうし│勇気・勇敢

いっすんぼうし絵本表紙

この物語は、室町時代の『御伽草子』に収められている古典的な昔話で、小さな体でも大きな夢と勇気を持って人生を切り拓いていく主人公の姿を描いています。
体格や境遇に関係なく、自分の個性を活かして困難に立ち向かう勇気の大切さを教えてくれる、現代の子どもたちにも響く力強いメッセージを持った物語です。

【あらすじ】

昔、子どもに恵まれなかったおじいさんとおばあさんに、背がわずか一寸(約3センチ)しかない男の子が生まれました。夫婦は彼を「一寸法師」と名付けて大切に育てました。

やがて一寸法師は武士になることを夢見るようになり、針の刀、お椀の船、箸の櫂を持って都へ旅立ち、都で宰相殿に雇われることとなり、姫の護衛として仕えることになりました。

ある日、一寸法師が姫のお供をしていると恐ろしい鬼が姫を襲ってきました。一寸法師は小さな体で勇敢に鬼に立ち向かいましたが、鬼に飲み込まれてしまいます。しかし一寸法師は諦めず、鬼の腹の中で針の刀を使って暴れ回り、ついに鬼を降参させました。鬼は痛がって逃げ去り、その時に落とした打ち出の小槌を一寸法師が拾いました。

一寸法師は打ち出の小槌を使って自分の体を大きくし、立派な青年になりました。そして姫と結婚しいつまでも幸せに暮らしました。

いっすんぼうし場面集

教訓1:「人生を自分の手で切り拓くという勇気」

『いっすんぼうし』の最も重要な教訓は、「たとえ恵まれない境遇にあっても、自分の力で人生を変えることができる」という勇気ある生き方です。

一寸法師は、体が小さいという大きなハンディキャップを背負っていました。しかし一寸法師は、自分の境遇を恥じることも悲観することもありませんでした。むしろ大きな夢と希望を抱いて、積極的に都へ向かったのです。

この姿勢から、子どもたちは「自分が変わりたいと思ったら、まず一歩踏み出すことが大切」だということを学ぶことができます。体が小さい、勉強が苦手、人見知りをするなど、誰にでも「自分の弱い部分」はあります。しかし、それを言い訳にして諦めるのではなく、「今の自分にできることから始めてみよう」という前向きな気持ちを持つことが重要なのです。

読み聞かせの際には、「一寸法師はどうして都に行こうと思ったのかな?」「みんなもやってみたいことがある時、どんな気持ちになる?」といった問いかけを通じて、子どもたち自身の挑戦する心を引き出してあげてください。「やりたいことがあったら、まずは勇気をもって行動してみよう」というメッセージを伝えることができます。

教訓2:「自分の個性を活かして困難に立ち向かう勇気」

一寸法師が鬼を退治する場面は、「自分の個性を活かすことの大切さ」を教えてくれる素晴らしい例です。

大きくて強い鬼と対峙した時、一寸法師は自分の「小さい」という特徴を最大限に活用しました。鬼に飲み込まれるという絶望的な状況でも、「小さいからこそ鬼の腹の中で自由に動ける」という発想の転換をしたのです。

これは現代の子どもたちにとっても重要な学びです。「みんなと同じようにできない」と悩むのではなく、「自分だけの特別な良いところ」を見つけて活かすことで、様々な問題を解決できることを教えてくれます。

例えば、声が小さい子は「優しく話しかけるのが上手」、慎重な子は「危険なことに気づくのが得意」、好奇心旺盛な子は「新しいことを見つけるのが上手」など、一人ひとりに素晴らしい個性があります。

また、一寸法師が針の刀、お椀の船、箸の櫂という身近な道具を活用したことは、「リソースの制約下でのイノベーション」に繋がります。豊富な資金や最新技術がなくても、既存のリソースを創造的に組み合わせることで、画期的なソリューションを生み出すことができます。これは特にスタートアップや中小企業において重要な考え方です。十分なリソースがある時よりも、制約がある時の方が創造的なアイデアが生まれやすいという研究結果もあります。

一寸法師のように、自分の「弱み」と思われる部分を「独自の強み」に変える発想力は業務を進める上での大きな力となるでしょう。

教訓3:「最後まで諦めない心の強さ」

一寸法師の物語で特に印象的なのは、絶望的な状況でも決して諦めなかった心の強さです。

鬼に飲み込まれた時、普通なら「もうだめだ」と諦めてしまうかもしれません。しかし一寸法師は、その状況の中でもできることを考え、針の刀で鬼の腹の中から攻撃を続けました。この「最後まで諦めない気持ち」があったからこそ、最終的に鬼を退治することができたのです。

子どもたちの日常でも、「難しいからやめよう」「うまくいかないから諦めよう」と思う場面があります。しかし、一寸法師のように「もう少し頑張ってみよう」「別の方法はないかな」と考える心を育てることが大切です。

もちろん、無理をしすぎることは良くありませんが、「すぐに諦めずに、もう一度挑戦してみる勇気」を持つことで、子どもたちは多くのことを乗り越えられるようになります。

これは子どもたちだけでなく、大人の仕事にも言えることで、トーマス・エジソンの「私たちの最大の弱点は諦めることにある。成功するのに最も確実な方法は常にもう一回だけ試してみることだ」という言葉に通ずるものがあります。

ひとことポイント

自分の弱みを強みに変える発想力で困難に立ち向かう姿勢。
恐れず諦めず、挑戦する勇気こそが人生を切り拓く。

2-9 うさぎとかめ│努力と継続

うさぎとかめ絵本表紙

この物語は、イソップ寓話に記されている話の一つで、その成立は紀元前にまでさかのぼる非常に古いものです。イソップ寓話には『アリとキリギリス』『北風と太陽』『金の斧』など、日本でも親しまれている物語が多く記されており、人間の本質を鋭く描写したこれらの物語は、現在でも世界中で広く愛され続けています。

【あらすじ】

むかしむかし、あるところに優しいかめがいました。

ある日、いじわるなうさぎがやってきて、足の遅いかめをばかにしました。
かめは怒ることなく、大きな木まで競走しようとうさぎに提案します。競走が始まると、うさぎは物凄い速さで走りました。一方、かめは急がず慌てず、しかし休むことなくゆっくりと歩き続けました。

全速力で走ったうさぎは、途中でかめの姿が見えなくなったことで油断して、おなかいっぱいになるまで畑の人参を食べ、居眠りを始めてしまいました。

うさぎが眠っている間も、かめは休むことなく歩き続けました。しばらくして目を覚ましたうさぎが走り出すと、なんと、すでにかめが大きな木に着いていました。

得意な競走で負けてしまったうさぎは恥ずかしくなり、山の向こうへと逃げていってしまいました。

うさぎとかめ場面集

教訓1:「継続的な努力の大切さ」

『うさぎとかめ』の最も重要な教訓は、「継続的な努力」の価値です。

かめは足が遅いというハンディキャップがありながらも、「急がず慌てず、しかし休むことなく」歩き続けました。この「継続する力」こそが、最終的に勝利をもたらしたのです。一歩一歩は小さくても、それを積み重ねることで大きな成果を生むことができることを教えてくれます。

子どもたちの生活でも、例えば文字の練習、楽器の練習、運動の練習など、すぐに結果が出ないことは多くあります。しかし、どんなことでも毎日コツコツと続けることで必ず上達します。

読み聞かせの際には「みんなも毎日続けていることはある?」「続けるのが大変な時はどんな気持ちになる?」といった問いかけを通じて、継続することの価値を一緒に考えてみてください。「一歩ずつでも、続けていれば必ずゴールに着くよ」というメッセージを伝えることができます。

教訓2:「油断大敵の戒め」

うさぎの行動からは、「油断大敵」という重要な教訓を学ぶことができます。

うさぎは確かに足が速く、能力的には優れていました。しかし、自分の能力を過信し、相手を見下し、途中で気を抜いてしまいました。この油断が最終的な敗北につながったのです。

どんなに優れた能力を持っていても、最後まで真剣に取り組まなければ良い結果は得られません。また、相手を軽く見ることも危険です。子どもたちには「自分が得意なことでも、最後まで一生懸命頑張ることが大切」だということを伝えることができます。

日本では明治初期から昭和初期にかけての教科書に「うさぎとかめ」の物語が掲載されていました。その時の題名は「油断大敵」。この時の主人公はカメではなくウサギであり「小学読本」に掲載された物語の締めくくりには「人モ才智アリトテ油断スレバ 此兎ノ如ク遂ニ遅鈍ナル者ニモ及バズ 諺ニ曰 油断大敵ト 誠ニ 慎ムベキ事なり」と記されています。努力を推奨するのではなく、油断を戒めることを重視していたのです。

教訓3:「目標を見据えて進む大切さ」

この物語でもう一つ注目したいのは、「うさぎとかめの見ているものの違い」です。

うさぎは競争相手であるかめばかりを意識していました。「かめはのろまだ」「まだまだ後ろにいるだろう」と、常に相手のことを考えていたのです。

一方、かめはしっかりとゴール(大きな木)を見据えて歩き続けました。もしかめもうさぎを意識しすぎていたら、眠っているうさぎを見て油断してしまったかもしれません。

この違いから、「目標やゴールをしっかりと見据えることの大切さ」を学ぶことができます。他の人と比較することも時には必要ですが、それ以上に「自分が向かうべき目標」を明確にして、そこに向かって努力することが重要なのです。

ひとことポイント

継続的な努力による成果と、能力と才能ゆえの油断。
他者に勝利することを目的とするのではなく、自分自身が定めた目標をめざして行動する。

2-10 きこりのおの│正直と誠実

きこりのおの絵本表紙

この物語もイソップ寓話の一つで、正直さの価値を説く古典的な教訓話です。日本民話でも『花咲か爺さん』『こぶとり爺さん』『鼠浄土』など、欲張りな隣人が登場する「隣の爺型」という話型で親しまれており、正直者と嘘つきの対比を通じて、誠実に生きることの大切さを教えてくれます。

【あらすじ】

むかしむかし、森で木を伐っていた正直な木こりが、あやまって大切な鉄の斧を川に落としてしまいました。

途方に暮れていると泉の女神様が現れました。

女神様は金の斧を差し出して尋ねました。木こりは正直に答えました。次に銀の斧を見せられた時も違うと答え、最後に鉄の斧が出されると、それが自分の斧だと正直に答えました。するとその正直さに感動した女神様は、金・銀・鉄すべての斧を木こりに与えてくれました。

この話を聞いた欲張りな別の木こりは、自分も同じようにして金の斧を手に入れようと、わざと斧を川に投げ込みました。

女神様が現れて金の斧を差し出すと、欲張りな木こりは嘘をついて自分のものだと言いました。すると女神様は怒って何の斧も与えずに姿を消してしまいました。

きこりのおの場面集

 

教訓1:「正直であることの価値、自らの仕事への誇り」

『きこりのおの』の最も重要な教訓は、「正直であることの価値」です。

正直な木こりは、目の前に金の斧や銀の斧という魅力的なものを示されても、それが自分のものではないと正直に答えました。正直であることは、時として自分に不利になることもあります。しかし、この物語が教えてくれるのは、「長い目で見れば、正直でいることが最も良い結果をもたらす」ということです。嘘をついて一時的に得をしても、それは本当の幸せにはつながりません。

そして、木こりが鉄の斧を大切に思っているのは、それが大切な仕事道具であるからです。これは自分の仕事に対して誇りを持っているからこその考えで、欲張りな木こりにはまったく見られない姿勢でもあります。技術と知識を身につけて、それを発揮できる仕事を得ていることに、木こりは大きな誇りを持っているのです。これは後述の自らの幸福を知る上で、大人にとっても大切な精神です。

教訓2:「大欲をかくことの愚かさ」

欲張りな木こりの失敗から、「欲張りすぎることの危険性」を学ぶことができます。

彼は他人の幸運を見て、「自分も同じように楽をして良いものを手に入れたい」と考えましたが、正直な木こりが報われたのはその正直さゆえであり、表面的な行動だけを真似しても心の在り方が違えば結果も全く違ってしまうことを物語は伝えています。

現代社会でも「楽をして良い思いをしたい」「ズルをしてでも得をしたい」と思うことは誰にでもあるでしょう。しかし、それは本質的ではない表面的な幸福でしかありません。その点において近年のライトノベルや漫画で「努力せずに身につけたチート能力」をもつ人物が活躍するというジャンルが流行しているのは、社会不安や閉塞感によるものかも知れません。

子どもたちには、「自分のものじゃないものを欲しがるより、自分が持っているものを大切にしよう」「ずるをして得をしようとするより、正直でいることの方が気持ちいいよ」といったメッセージを伝えることができます。「欲張りな木こりさんは、どうして失敗したのかな?」「みんなも、お友だちの持っているものが羨ましくなることはある?」といった問いかけを通じて、誠実さの価値を一緒に考えてみてください。

教訓3:「他人の幸せを妬まない心」

この物語で見過ごされがちですが、非常に重要なのが「他人を妬む心の危険性」です。

欲張りな木こりは、正直な木こりが金の斧をもらったことを知って妬みました。「なぜあの人だけが良い思いをするのか」「自分も同じようにしたい」という気持ちから、結果的に自分の斧さえも失ってしまいます。

古代ローマの政治家セネカも「他人の幸せと自分の幸せを比べているうちは、幸福になることはできない」と述べています。他人の幸運を妬むと、自分の道を見失うことになるのです。他人の幸せと自分の幸せを比べるのではなく、自分なりの幸せを見つけることが大切です。

そして私たち大人も、子どもたちが他の子と比較して落ち込んだりしないよう、その子なりの成長や良さを認めて褒めてあげることが大切です。「○○ちゃんはできるのに」ではなく、「あなたはあなたらしく頑張っているね」という声かけを心がけたいものです。

ひとことポイント

正直であること、自分の仕事に誇りをもって取り組むことの大切さ。
他人を妬み、自分の幸福と他人の幸福を比較しているうちは、本当の幸福は得られない。

まとめ

昔話は長い歳月をかけて磨かれた人間関係の教科書です。

つるのおんがえしの信頼関係、わらしべちょうじゃの価値創造、うさぎとかめの継続力——これらの教訓は、子育てにもビジネスにも通用する普遍的な知恵です。

AIが発達し、効率化が進む令和の時代だからこそ、昔話が伝える「人間らしい心」の価値がより重要になっているといえます。見返りを求めない優しさ、約束を守る誠実さ、相手を思いやる心——これらは決してデジタル技術では代替できない、人間だけが持つ力です。

昔話の教訓と精神を日常生活に取り入れることで、子どもたちの道徳観を育み、大人の人間関係を豊かにすることができるでしょう。古くから語り継がれる物語の力を信じて、現代社会でも活用していきましょう。

1日5分。親子の“心育て”習慣、はじめてみませんか
寝る前の読み聞かせで、やさしさや思いやりが自然と身につく。
忙しい日々でも、親子で心を通わせる時間が生まれます。
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